非特異的腰痛について

整骨院に来院される患者様の中で、最も多くみられる症状の一つが腰痛です。腰痛と聞くと「重い病気なのではないか」「このまま治らないのではないか」と不安になる方も少なくありません。しかし、実際に腰痛で悩まれている方の多くは非特異的腰痛と呼ばれるタイプの腰痛に該当します。
非特異的腰痛とは、レントゲンやMRIなどの画像検査を行っても、骨折や椎間板ヘルニア、神経の圧迫、感染症、腫瘍といった明確な原因が特定できない腰痛のことを指します。腰痛全体の約85〜90%がこの非特異的腰痛であるとされており、決して珍しいものではありません。検査で「異常なし」と言われると、「原因が分からないのに痛みがあるのはおかしい」と感じる方もいますが、それは腰の骨や神経に重大な異常がないという意味でもあり、命に関わるような深刻な病気ではないことがほとんどです。
柔道整復師として多くの腰痛患者様を診てきた中で感じるのは、非特異的腰痛の多くが日常生活の中での身体の使い方の積み重ねによって起こっているという点です。長時間のデスクワークやスマートフォンの使用による前かがみ姿勢、家事や仕事での中腰姿勢、重い物を持ち上げる動作、左右どちらかに偏った動きの繰り返しなどは、知らず知らずのうちに腰へ大きな負担をかけています。
また、運動不足によって腹筋や背筋などの体幹筋が弱くなると、背骨を安定させる力が低下し、腰にかかるストレスが増大します。さらに、加齢によって筋肉や関節の柔軟性が低下すること、体重増加によって腰への負荷が増えることも、腰痛を引き起こしやすくする要因となります。
加えて見逃せないのが、精神的ストレスの影響です。仕事や家庭、人間関係などによるストレスが続くと、自律神経のバランスが乱れ、筋肉が常に緊張した状態になります。筋肉が緊張すると血流が悪くなり、疲労物質がたまりやすくなるため、腰の痛みが出やすくなったり、痛みが長引いたりすることがあります。非特異的腰痛は、身体的な問題だけでなく、心理的・社会的な要因も関係する「多因子性の腰痛」であることが特徴です。
診断の際には、まず腰痛の背景に重篤な疾患が隠れていないかを確認することが最優先となります。安静にしていても痛みが強く続く場合、足の強いしびれや脱力感がある場合、排尿や排便に異常がある場合、発熱を伴う場合などは、医療機関での精密検査が必要です。一方で、姿勢や動作によって痛みが変化し、神経症状が明らかでない場合は、非特異的腰痛である可能性が高いと考えられます。
画像検査で異常が見つからなくても、筋肉、関節、靭帯、筋膜といった軟部組織の機能低下やバランスの乱れが痛みの原因となっていることは少なくありません。検査に写らない部分にこそ、痛みの本当の原因が隠れている場合が多いのです。
非特異的腰痛の治療は、保存療法が基本となります。柔道整復師は、手技療法や物理療法を通じて、筋肉の緊張を和らげ、血流を改善し、身体全体のバランスを整えていきます。痛みが強い急性期には、無理に動かさず、炎症や緊張を抑えることが大切ですが、必要以上に安静にしすぎることはおすすめできません。
以前は「腰が痛いときは安静が一番」と考えられていましたが、現在では安静にしすぎることで筋力が低下し、回復が遅れることが分かっています。痛みが許す範囲で日常生活を続け、少しずつ身体を動かしていくことが、回復への近道となります。
症状が落ち着いてきた段階では、運動療法や生活指導が非常に重要になります。腹筋や背筋などの体幹筋を中心としたトレーニング、股関節や太もものストレッチなどを行うことで、腰への負担を軽減し、再発しにくい身体づくりを目指します。また、正しい姿勢や動作の指導を行い、日常生活の中で腰にかかる負担を減らすことも大切です。
整骨院で施術を受けるだけでなく、患者様ご自身が「自分の身体をどう使っているか」を意識することが、腰痛改善と再発予防の大きなポイントとなります。
非特異的腰痛は、多くの場合、時間の経過とともに改善が期待できる症状です。ただし、一度良くなっても再発しやすいという特徴があります。そのため、痛みが取れた後こそが重要な時期とも言えます。適度な運動習慣を続けること、正しい姿勢を意識すること、体重管理を行うこと、十分な睡眠をとること、ストレスを溜め込みすぎないことが、腰痛予防につながります。
腰痛を「完全にゼロにすること」だけを目標にするのではなく、「腰痛と上手に付き合いながら生活の質を高めていく」という視点も大切です。
柔道整復師として、私たちは痛みを取ることだけを目的とするのではなく、患者様が安心して日常生活を送り、仕事や趣味を楽しめるようになることを目標に施術を行っています。腰痛に対する正しい知識を持ち、身体の状態を理解し、前向きにケアを続けていくことで、腰痛は必要以上に怖いものではなくなります。非特異的腰痛と向き合いながら、無理のない形で健康な身体づくりを一緒に目指していきましょう。